ICカード1枚で地下鉄、私鉄、JRに乗車可能に
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/person/epoch/070312_pasmo1/
「PASMO協議会」に加盟する首都圏の地下鉄、私鉄、バス会社は3月18日、共通で利用できるICカード乗車券「PASMO」のサービスを開始する。
これまで、首都圏の地下鉄・私鉄は磁気カード乗車券の「パスネット」、バス会社は「バス共通カード」を発行してきた。また、東日本旅客鉄道(JR東日本)は2001年から独自にICカード乗車券「Suica(スイカ)」を導入している。首都圏の交通機関の利用者は、パスネット、バス共通カード、Suicaという3種類のカードを使い分ける必要があった。
PASMOはSuicaとの相互利用が可能。地下鉄、私鉄、バス、JRのすべてを1枚のカードで乗り継げる。利用者の利便性は飛躍的に向上する。
3月18日にサービスを開始するのは地下鉄・私鉄23事業者とバス31事業者。今後、さらに増えて、最終的には鉄道26事業者、バス75事業者の計101の事業者がサービスを提供する。
PASMOの発行・運営事業などを手掛けるパスモの早川弘之事業部次長兼情報セキュリティ課長にPASMO誕生の経緯などを聞いた。パスモは、地下鉄・私鉄11事業者、バス19事業者が出資して設立した。
■PASMOの基本的なサービス内容を教えてください。
早川 PASMOは首都圏の地下鉄、私鉄、バスの共通乗車券として使えるICカードです。事前にお金をチャージしておけば、自動改札機の読み取り部にタッチするだけで、電車やバスに乗ることができます。定期券の情報を載せることも可能。定期券で改札を通り、乗り越した場合も、チャージしてあるお金で精算できます。
パスモの早川弘之事業部次長兼情報セキュリティ課長
東日本旅客鉄道(JR東日本)のICカード「Suica」とも相互利用できる。1枚のカードで地下鉄、私鉄、バス、JRを乗り継ぐことができます。
また、電子マネーとして買い物もできる。PASMOやSuicaマークのある販売店や自動販売機で利用することが可能です。
カードは、標準仕様は無記名。ただし、氏名、性別、生年月日、電話番号を登録した「記名カード」とすることもできます。記名カードにすれば、紛失しても再発行します。小児用カードはすべて記名式で、小児運賃を適用します。
ICカード1枚で地下鉄、私鉄、JRに乗車可能に
「パスネット」計画時から構想はあった
■1枚のカードで首都圏の交通機関を利用できるのは画期的です。地下鉄、私鉄だけでなくバス、さらにJRとも相互利用できる。このカードを企画したのはどんな経緯からですか。
早川 話は2000年10月にさかのぼります。首都圏の地下鉄・私鉄22事業者は当時、「パスネット」を計画していました。
首都圏は鉄道網が複雑に走っています。複数の鉄道を乗り継ぐ際に、いちいち切符を買うことなく乗り降りできる共通のカードがあれば、非常に便利です。バスに乗る際もそのカードが使えれば、さらに使い勝手がいい。利用者の間からは、そうしたカードが欲しいという要望が出ていました。
既に関西にはこうした私鉄・バスの共通乗車券カードがありましたので、首都圏でも同様のカードを発行したいと考えていました。
■1枚のカードで、地下鉄、私鉄、バス、JRを乗ることができるカードにしたいと…。
早川 将来的にそうしたいという気持ちがありました。その時点で、バスは26事業者が参加して磁気式の共通乗車券カード「バス共通カード」を、JR東日本は磁気式の「イオカード」を発行していました。また、JR東日本が近々ICカード(Suica)を出すことも分かっていました。
パスネットを含めた3枚の磁気カードを統合して地下鉄、私鉄、バス 、JRに乗れるようにしたいという考えはあったけれども、ICカードが出ることが分かっているのに、今さら磁気カードを共通化するのは難しい。かといって、パスネットをICカードにしようとしたら、さらに開発に時間がかかり、導入が遅れてしまう。
そこで、鉄道22事業者が立ち上げたパスネット協議会は、まずは地下鉄と私鉄に共通に使える磁気式の共通乗車券カードを2000年に出すことを優先しました。JR、バスも含めた共通化はICカード化するときに実現しようということで見送ったのです。
その後、2003年にパスネットとバス共通カードのICカード化、Suicaとの相互利用を正式に発表。2004年2月にパスネット・バスICカード(現パスモ)を設立して開発に取り組んできました。PASMO誕生で、長年の構想がようやく実現します。
■先行してICカードを発行しているSuicaの仕組みに参加するという選択は考えませんでしたか。
早川 交通乗車券カードとしての機能は、SuicaとPASMOは共通です。しかし、乗車券カードのシステムをインフラとして展開していく付加ビジネスは、各社ごとに戦略が異なります。これを実現するためには、独自のカードにする必要がありました。
例えばクレジットカードと一体になったグループポイント戦略、沿線地域と結び付いた展開などは、各社各様のアイデアと工夫によってサービスを提供していくことになります。系列のデパートやスーパーで、クレジットカードで買い物をするとポイントがたまり、そのポイントをPASMOにチャージして電車やバスに乗れるようにする、といったものです。
私鉄は伝統的にクレジットカードとデパート、ホテルなどを結び付けた顧客サービスを展開しています。そういう独自の事業展開が可能なビジネススキームを目指しました。こうしたアイデアや工夫、戦略に応じた展開をするためには、JRのクレジットカードである「ビュー」と結びついたSuicaのスキームに乗っかるわけにはいきません。
■PASMOのサービスを提供するために、わざわざカードの発行・運営を手掛ける会社としてパスモを設立したのはなぜですか。
早川 パスネットやバス共通カードは各鉄道会社やバス会社が発行・運営しています。同じ仕様で、互いに使えるカードを複数の事業者がそれぞれ出し、お互いが精算するという形でした。
PASMOはパスネットとは比べ物にならないほど広がりの大きい事業です。Suicaとの相互利用もあるし、電子マネーとしての機能もある。各社が発行主体となって、システムの開発・運営、お客様へのサービス、個人情報の管理などを行うのは、費用面で大きな負担です。会社を設立して、一元化するのが現実的でした。
パスネットに参加していた地下鉄と私鉄、バス共通カードに参加していたバス事業者を中心に構成するPASMO協議会が出資、役員・人員を派遣してつくったのが運営会社のパスモです。
PASMOのサービス内容はPASMO協議会が決定します。その決定に従って、パスモが開発・運営を行います。
■参加事業者が多く、方針を決めるのは難しくありませんでしたか。
早川 時代の流れを踏まえて、乗車券カードをIC化しなくてはならないという認識は共通していました。経営環境、設備投資力などは各社異なりますから、いろいろな考えがあったのは確かです。ただ、「既に稼働しているSuicaと同様のサービスを提供する」、「Suicaと相互利用できるようにする」という方針は固まっていましたので、温度差が表面化するようなことはなかったと思います。
次回は交通乗車券カードとして重視したSuicaとの共通性、PASMOが狙う高齢者層の獲得について語ってもらう。
小林 佳代
1967年東京都生まれ。1990年慶応義塾大学法学部政治学科卒業。同年日経BP社に入社。「日経ビジネス」記者などを経て2001年に退社、フリーに。現在、「日経ビジネス」、「日経ビジネスアソシエ」、「日経エコロジー」など、主に経営・ビジネス関係の媒体で執筆中。